ジャーナル

“翻訳者”として現場をつなぐ――キャスティングで広がる作品の可能性

2025年09月10日配信

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広告から映画・ドラマまで幅広いキャスティングを手がけてきたキャスティングディレクター、上野昇平氏。

新卒で大手IT企業に入社した後、独立系キャスティング会社の創業メンバーとして、現場での経験を積みながら独自のキャリアを築いてきました。業界の変化を間近で見つめてきた上野氏に、キャスティングという仕事の本質、そして「人と作品との出会い」が持つ力について伺いました。

 

<プロフィール>

上野 昇平(うえの・しょうへい)

キャスティングディレクター。広告や映像制作を中心に、イベントから映画・ドラマまで幅広いキャスティングを手がける。制作会社や芸能事務所とのネットワークを活かし、「人と作品をつなぐ架け橋」として活躍中。

 

 

若い才能との出会いがキャスティングを進化させる

 

――最近の活動や、力を入れている取り組みについて教えてください。

キャスティングを軸に、広告や映像制作の企画などにも携わっています。キャスティングに必要な情報は、以前はテレビさえ見ていれば、ある程度の流れを把握できました。でも今は状況がまったく違います。SNSから生まれるインフルエンサーやYouTuber、舞台や地方イベントで頭角を現す新人など、才能の入口が無数に広がっているのです。だからこそ「若い人たちとどう出会うか」を常に意識しています。
現場で出会った人に積極的にコミュニケーションをとっていくと、会話の中から次の仕事につながることも多いですね。メールや書類のやり取りだけでは見えない魅力や可能性は、現場での何気ないやり取りからこそ発見できるのだと思います。変化のスピードが速い今の業界では、そうした接点を絶やさないことが欠かせません。

 

――キャリアの転機と感じた出来事はありましたか?

大学時代からエンタメ業界にはもともと興味がありました。ただ、新卒で入社したのは大手IT企業。社内のベンチャー気質に感化され、「次はもっと自分の好きな領域で挑戦したい」と思ったんです。その矢先に出会ったのが、社長一人だけの独立系キャスティング会社でした。周囲には反対もされましたが、そこに飛び込み、得た経験が今の礎になっています。
当然、最初は知識も人脈もゼロ。ですが、イベントや広告案件を繰り返す中で、事務所や制作会社との信頼が少しずつ積み上がり、「やっていける」と確信できた瞬間がありました。トラブルに巻き込まれることもありましたが、その経験こそがキャスティングを本気の仕事として続けていく原動力になったと思います。

 

 

キャスティングは“翻訳者”。企画から現場まで、人と人をつなぎ作品づくりを支える

 

――これまでの現場で印象に残っているエピソードや、仕事で大切にしていることを教えてください。

イベントや広告のキャスティングを通じて、広告代理店や制作会社との関係はどんどん深まっていきました。単なる作業でキャスティングするのではなく、企画の段階から一緒に考えるような関係性を築けると、作品全体に影響を与えることができます。
キャスティングが「ただの人選」ではなく「作品を変える要素」になる。そういう場面を経験するたびに、この仕事の奥深さを感じます。
キャスティングの本質は「翻訳」だと思っています。スポンサーや制作サイド、芸能事務所、立場ごとに言語が違うんですよ。そのまま伝えると必ず衝突するので、中立的に翻訳し調整する。これが僕らの役割です。
例えば吹き替え版映画のキャスティングでは、大御所の演出家と俳優との間で空気が凍りつくような場面もありました。でもきちんと会話を重ねれば理解は得られる。キャスティングは単純に人を選ぶだけでなく、人と人の間に立ち、対話をつなぐ仕事だと実感しました。
こうした「翻訳者」としての役割を果たすことで、時に作品全体の空気が変わることもあります。キャスティングは裏方の仕事でありながら、作品を左右する大きな力を持っていると感じています。

 

 

業界の変化と、属人的だからこそ生まれる強み

 

――ご自身のキャリア初期と比べて、業界の変化を感じることや課題感はありますか?

 大きく変わりましたね。昔は理不尽な場面も多く、タレントやスタッフが不当な扱いを受けることもありました。でも今はかなりホワイト化し、一般企業に近づいています。
一方で、今も残っているのは「属人的な部分」です。これは決して悪いことばかりではなく、現場での経験や人間関係から生まれる判断があるからこそ、良い作品につながることも多いんです。ただ、その一方で、作業的な業務や芸能事務所との日々のやり取りなどは効率化できればもっとスムーズになる。つまり、人にしかできない判断は大切にしつつ、作業部分を効率化することが業界にとって大きな課題だと感じています。
今のキャスティングは「人に聞かないと分からない」ことが多すぎます。スケジュール確認や競合状況、ギャラの目安といった情報が整理されれば、もっとスムーズに現場が動けるでしょう。業界全体にとって、情報の可視化と効率化は避けて通れないテーマだと思います。

 

――最後に、今後の展望をお聞かせください。

どんな人が次に売れていくのかを見届けるのは、キャスティングの醍醐味です。その一方で、自分自身も新しい才能を見つけ出し、作品や企業につなぐ“架け橋”であり続けたいと思っています。

業界は常に変化を続けています。情報発信の方法も、タレントの在り方も大きく変わってきました。だからこそキャスティングも、時代に合ったやり方で進化していく必要があります。作業の効率化や情報の整理はもちろんですが、最終的には「どんな人と出会えるか」「その出会いをどう作品につなげるか」。そこにキャスティングの価値が集約されていると考えています。