ジャーナル
2025年11月06日配信

『Vジャンプ』で、子どもたちの“好き”を届け続けてきた元副編集長・サイトーブイこと齋藤征彦氏。現在は新規事業開発室で新しい挑戦に取り組んでいる齋藤氏に、当時のエピソードや、変わりゆくコンテンツの未来についてお話しを伺いました。
<プロフィール>
齋藤 征彦(さいとう・まさひこ)通称:サイトーブイ
株式会社 集英社 (新規事業開発部 事業開発室室長 兼 XR 事業室室長)
1978年、千葉県生まれ。新卒から現在まで集英社の生え抜き社員。漫画、ゲーム、カード、アニメ、ホビーなど小中学生の好きなことに特化した月刊誌『Vジャンプ』の編集者を20年間務め、『ドラゴンクエスト』や『ダイの大冒険』リブート期の担当も手がける。現在は新規事業開発担当として集英社の新たなビジネス展開を模索中。
――集英社に入社されてから「Vジャンプ」一筋で副編集長まで務められたそうですね。
集英社に入社して22年、生え抜き社員です。最初の配属から最近まで20年間「Vジャンプ」の編集者でした。少年ジャンプの兄弟誌的な雑誌で、漫画だけじゃなくゲームやカード、ホビーの情報も詰め込んだ「子どもが好きなもの」をまるっと扱っていました。
実は、入社するまで『Vジャンプ』を知らなかったので(汗)、配属が決まった時は「少年ジャンプじゃないのか...」とショックでした(笑)…けど、やってみたら面白くて!漫画の作家さんだけではなく、ライターさんやデザイナーさん、ゲーム会社や玩具メーカーの人たちとも仕事する機会が多かったので、仕事の幅はとても広く、結果的に自分に合っていたと思います。
そして、いつの間にか副編集長になっていた感じですね。
――編集者としての20年の中で、印象に残っているエピソードを教えてください。
ニコニコ生放送の「ドラゴンクエストXTV」という配信番組に出ていたことがありましたが、それは結構おもしろかったですね。雑誌の担当として関わっていた流れで、番組にも出ないかと話をもらったんですけど、実際には「出してほしいです」ってこちらからお願いしたようなものです(笑)。
というのも、Vジャンプでドラクエの情報を扱っていましたが、オンラインゲームなのでアップデートのスピードが早いんですよ。Vジャンプは月刊誌でどうしても掲載情報が遅れるので、せめて“番組に関わってる感”を残そうという思いもあって出ることになりました。
「ドラゴンクエストXTV」は、ゲームの中身を紹介する番組なので実際にゲームをやっているシーンを見せるような内容だったんですけど、僕はそんなに上手い方じゃないので、失敗しても笑えるユルいコーナーを用意していただきました。そこで、「ドラクエ」と「Vジャンプの編集」という肩書きを最大限活用しつつ、視聴者の方にイジられながら楽しく雑誌や攻略本の宣伝をしていました。
出るのは好きなんですよ。ちやほやされたいタイプなんで(笑)。
この時に「サイトーブイ」という自分の通称を手に入れたのですが、今でもそう呼んでもらえて嬉しいですね。「ドラゴンクエストXTV」は、なぜか「サイトウ」が3人もいる「サイトウ」だらけの現場だったので通称が役立ちました。大元は、Vジャンプの誌面で自分のキャラクターを公開する際に、読者や他のユーザーのキャラ名とかぶらないように「Vジャンプ」の「V」を付けたのがきっかけです。
――Vジャンプ時代で「これは一番大きな仕事だった」というと、何になりますか?
2020年の「ドラゴンクエスト ダイの大冒険」リブート版アニメです。
原作は僕らが子どものころに完結しているので、リブートのプロジェクトに参加した各社のメンバーは、みんな子どもの頃に原作やアニメを見ていた世代。リブートの企画段階から「もう一回、ちゃんと子どもたちに届けよう」という一体感があったので進行はスムーズでした。
例えば、漫画2~3話分をアニメの20分くらいに凝縮するんですけど、魅せるシーン、やむなく削るシーンの議論などは、共通理解があったので割とすぐに決まるんですよ。コロナ禍のプロジェクトで、コミュニケーションの機会も少なく、オンラインだったりする中、助かりましたね。
一方、僕自身が月刊誌のリズムで生きてきた身なので、毎週の脚本・アフレコ・動画チェックという「週サイクル」がなかなか馴染めず...。アフレコ収録も密を避けて分割撮りだったので、通常の倍以上時間がかかりました。
もちろん、打ち上げにも行けず(笑)。でも、とにかく楽しかったです。
“子どもたちのために徹する”という共通認識からブレずに最後まで進められて、結果的には大人のファンも多いコンテンツになったけど、とてもやりがいを感じられた仕事でした。
――現在はどんなおもしろいことに取り組んでいるのでしょうか?
2年ほど前から新規事業を担当しています。
20年もVジャンプにいたので「次は編集長だ!」と意気込んでいたのに、辞令で呼ばれたら「新規事業部」。正直、今から新しいことはめんどくさいな...って(笑)。でも、やってみたら全然違う景色が見えました。新部署で出会う多くの方は、若い人、テック系の人、スタートアップの人。話す相手が変わると発想も変わるものですね。彼らの「やりたい」を一緒に実現するのが今の仕事です。そういったクリエイターの方の思いを形にするという点は、編集者の仕事と同じかもしれません。
新規事業部は、出版社としての「それ以外」を生み出すのがミッションで、理想を言えば「集英社を使わない方がいい」という考えですが、完全に使わないのは現実的ではないですね。既存の事業とぶつからず、でも出版社の新規事業部じゃなきゃできないことを探す。その答えをいつも考えてます。
自分の企画ではありませんが、新規事業部から世に出た例として「マンガダイブ*」があります。巨大なホールの壁や床一面に漫画の原画を投影して、動かして、まるで作品の中に入るような体験を提供する展示企画です。次の作品の予定は現状ないのですが、漫画を楽しむ新しい体験でした。
――齋藤さんが進めているプロジェクトがあれば教えてください。
ちょうど先日始まったのですが「ジャンプLAB*」という企画です。
週刊少年ジャンプの歴代人気作品からコマを選んでTシャツなどのグッズを作れるサービスです。僕ら世代が胸高鳴る、往年の人気作品を中心にスタートしました。「ど根性ガエル」とか「魁!!男塾」とか、おじさん世代が 「おっ!」って反応するやつですね。まずはこのジャンプLABをたくさんの人たちに楽しんでもらいたいです。読者が好きなコマを選んでグッズを作ることで、眠っていたファン心にもう一度火をつけてもらう。
マンガダイブのような空間を使ってのアプローチや、ジャンプLABの商品作りからのアプローチも、作品との新しい接点を増やすための実験だと思っています。
――編集者から新規事業担当へとキャリアを積んできて、これからのコンテンツの広がりの可能性をどう予想していますか?
なかなか予想がつかないのが正直なところですが、すでに起きていることの1つは、全てがアーカイブされていくことで思いがけないタイミングで作品の広がりが生まれること、ですかね。
映像も、もちろん漫画も...昔の作品や、連載がスタートしても残念ながらすぐに終わってしまった作品、当時人気だったけど忘れ去られてしまったような作品が、急にフォーカスされることがあります。
音楽は顕著で、ある日突然SNSでバズって昔の曲がヒットするってことが日常的に起きていますよね。漫画や書籍でも、書店さんの棚が限界で並べておけない作品や、絶版になってしまった作品でもデジタルで読めるようにしておけば、光が当たるチャンスは常にあると思います。
――テクノロジーの進化は、漫画の作り方や読まれ方にも影響を与えていると思いますが、その変化をどのように捉えていますか?
スマホが登場して表現の幅も増えました。電子連載の作品は紙に比べて、1ページのコマ数もセリフも少なめで、Webtoon*のように縦スクロールで読む漫画は登場人物も少ない傾向にあります。コマ割りもそれぞれ違って読むテンポも変わるけど、ちゃんと読者がいますよね。紙で読む人もいれば、スマホで読む人もいる。
選択肢が増えた分、作り手はチャレンジしやすいかもしれないですが、読者の嗜好も細分化されているのでどの読者に向けて作るかを、これまで以上に考えないといけないので、そういう意味では難しい面もあるなと感じています。
――最近ではデータ活用やAIの導入も進んでいますが、コンテンツ制作の未来についてはどうでしょう?
集英社としてもデータ活用は進めていまして。
弊社のアプリやウェブサービスを横断したIDサービス、集英社IDという取り組みをしています。最近ですと「ジャンプ+」がはてなさんと組んで、漫画家さん向けの分析ツール「マンガノアナリティクス」の提供を開始しました。
生成AIについては、著作権の議論はありつつ、技術的には漫画やドラマも平均点的なものをつくれる時代はすぐに来そうですよね。ただ、尖りや突き抜けた表現は人間からしか出ないんじゃないかと思っています。
クリエイターの仕事がなくなる未来予想図も見かけますが、最後の判断は人間に残しておきたい派です。監督や漫画家や役者がいて、その人たちがツールとしてAIを使いこなした先に出てくる新しい表現を見てみたいですね。
――テクノロジーが進化し続ける時代の「編集者」とはどのような役割なんでしょう?
僕が入社したとき、上司に言われたんです。
「編集者は何もできないんだから」って。最初は「え?」って思いましたけど、今はその通りだと思っています。漫画は作家さんが描く、デザインはデザイナーさんが作る。編集者ができるのは、スケジュールを遅らせないこと・感謝すること・チームで動くこと。つまり、段取りの総体なんですよね。
芸能界の仕事に例えるなら、僕らの役割はマネージャーさんに近いんだと思います。漫画の編集者は、まず作家さんがいなければ何も始まりませんから。
その点では、才能あるタレントを支えるマネージャーさんと同じように、作家さんと二人三脚で進んでいく。そういう戦い方は変わらないのかな、と考えています。
――齋藤さんご自身のこれからの展望や、チャレンジしてみたいことを教えてください。
そうですね、あえて言うなら「役者」をやってみたいです。…というのは半分冗談半分本気で(笑)。
「CAST+」のインタビューだからというのもありますが、やったことないことに一度はチャレンジしたい性分でして。そうは言っても基本的にはめんどうくさがりなので、外的要因があるとチャレンジしやすいです。
次は編集長だと思っていたのに「新規事業やれ」みたいに(笑)。
――これからクリエイティブな世界を目指す若い世代や、他業界で奮闘する方々へ、齋藤さんの経験から伝えたいメッセージはありますか?
僕としては、「とりあえずなんでもやってみる」ってことが大事なんじゃないかな、と。上司に「やれ」と言われたことには、とにかく何か意味があるんだろうと思って嫌がらず何でもやってみました。
結果、雑用を押し付けられただけだったこともいっぱいありましたけどね(笑)。
「ダイの大冒険」の原作者、三条陸さんに聞いた話が印象に残っています。三条さんは、漫画の原作の他に、特撮モノの脚本やアニメのシリーズ構成なども手がける超多才な方なんです。
ある日「なんでそんなにたくさん仕事できるんですか?」って聞いてみたら、「若い頃は、来た仕事はとにかく断らずにやってみよう!ってスタンスだった」と。何でも経験してみたからこそ、今があるんだなぁって。感心したのと同時に、その考え方に共感しました。
それと、自分の中にあるものは捨てないで欲しいです。
世の中の流行が明るいものばかりだったとしても、自分が暗いなら暗いままでいい。全てを流行に合わせてしまったら、自分の中のタネが育たないと思います。評判に踊らされてもいいけど、全部は任せない方がいいと思います。
自分自身をどこかに持っておくと、それが後で武器になりますから。